ミシンの話
40年以上ぶりに、ミシンに触れた。
家庭科(という授業、今でもある?)は苦手。
なかでも、裁縫はとくに。
小学6年生のとき、ミシンでエプロンを縫うという課題があった。それはまあ何とかクリアしたものの、中学1年生でワンピースを縫うというレベルになるとお手上げ。母に泣きついたものの、母も裁縫はあまり得意ではなかったので、母の友人が私の代わりにAラインのワンピースを縫ってくれた。
教室ではフーフー言いながらミシンと格闘していた生徒(私)が、課題提出日に縫い目がきれいにそろったワンピースを持っていった。怪しい。誰が考えたって怪しい。おそらく先生にも「自分で縫っていない」とわかったはず。でもありがたいことに、何も言われなかった。
それ以来のミシン。
私はミシンを持っていないので、3000円でお釣りのくるおもちゃのようなミシンを買った。必要なのは直線縫いだけだったので、これで十分。
きちんと下糸がセットされていて、説明書の通り、上糸をかけた。
「さあ!」と布を用意したけれど、はじめの一歩がもう覚えていない。
でも大丈夫。今はインターネットという便利なものが、何でも教えてくれる。
「ああ、そうそう。はじめは返し縫いね」。
何針か手動でミシンを動かして、その後、スイッチボタンを押すと驚くほど簡単にスイスイと縫い目が現れる。
「あら、いける」
多少縫い目が曲がっても、布が重なって分厚くなっている部分がもたついてもOK。
だって私が縫っているのは、トイレの手拭きタオル。
縫い目をまじまじと見る人なんて、まずいない。
ちゃんと布の端が縫われていれば、それで合格(だと思う)。
ダダダダダッ。ダダダダダッ。小さな電動ミシンのモーター音が意外に心地いい。
手縫いとは全く異なるスピードで、するすると現れてくる縫い目もきれいで心地いい。
「作っている!」感と、ほんのちょっぴりの「できる人」感。
うふふ。ほんの些細なことで、気分って上がるものなんだな。
気持ちよくボタンを押していたら、「がガッ」と不穏な音を立てて、ミシンが止まった。
「こわれた? やっぱり安いミシンだからかな」と思ったら、何のことはない。
下糸がからんでいただけだった。
そういえば学生時代も、このミシン糸のからまりに悩まされたっけ。
自他ともに認める不器用な私は、からまったものをほどくのも大の苦手なのだ。
でもからまったミシン糸はパチンとはさみで切って、そこからまた縫い直せばいい。
それだけ。
「それだけ」の小さなことに、昔はいっぱい悩まされたなあ。
たいていのことは、何とかやり過ごせるようになると、
些細なことに悩んでいた昔がなつかしいような、いとおしいような。
戻りたいとまでは、思わないけれど。